技術立国のすすめ

導入:

私は欧米特許文献の技術翻訳に従事し、毎日8時間、コンピュータのキーボードで翻訳文を打ち込む作業に追われています。取り扱う分野はエレクトロニクスおよび関連分野で、電子光学、電子器械、医療機器のコンピュータ化などを含み、多岐にわっています。日米欧間の特許合戦は年々激しくなるばかりでそれぞれ年間10万件にもおよぶ特許申請が行われています。特殊な技術文献のためまだ等分の間は機械翻訳に委ねることができません。私は持病の心臓病に加え、きつい作業のため目はしょぼしょぼ、手は腱鞘炎、座りぱなしのため椎間板変性症の腰板に悩まされています。身体はもうガタガタですが手先を使うためか脳機能はなんとか正常を維持しております。もう良い年なのだから止めて楽をすれば良いのにと言われますが、この仕事を通じて得られる世界のエレクトロニクスおよび関連分野における最新先端技術に接することはなににも代えられない喜びがあるため止められません。

新規の技術開発は精密な論理構成と反復する実験の上に成り立つことは勿論ですが、また斬新な発想、奇抜な思考、あるいは偶然の事象をきっかけに急速に進展することも少なくなく,その妙味に深い興味を感じております。

さて、近時の子供たちの状況を見ますに、数学離れが進み、理科系の学科が不得意のため授業料の廉い国立大学を受験できない者が増加していると言われています。理科系の進学希望者が多い中国やインドの現状と比較し、これで良いのかと不安を感じております。私は日本が将来世界の中で生き残るためには技術立国の道しかないと考えております。そして子供達にそのモチベーションを与えるため、先の太平洋戦争で戦った日、米、英の艦艇および航空機の全種目のプラモデルを製作(艦艇250隻、航空機200) し、それを手段として用い、それぞれの国の基本的な設計思想、製造技術、工程、加工等の手順、手法の相違があったことを知らせ、また情報の収集評価、技術開発の先見性、システムの統合運用の必要性、さらには自覚すべき日本人特有の精神構造などを訴えたいと念願しております。 また、クズ鉄、ガソリン、生ゴム、ポーキサイド(アルミニウムの原料)の輸入が途絶した中で、技術者が代用燃料、代替資材等を用いて高性能の兵器の開発に血の汗を流して努力した事実、並びに、技術者、工員を含め5万人を擁する日本最大技術屋集団の海軍航空技術廠の若い技術士官や徴用された技術者、技師、職工、職工たちが困難な環境下で行った各種の基礎的研究の成果が、究極的には国家総戦力戦で破れたとは言へ、世界に誇る数々の遺産を残し、戦後の発展に大きく寄与したことを伝承することこが海軍に籍を置いた者の一人としての責務と自覚しております。

海軍の技術的遺産の例(参考)

フラッター現象(高速飛行中の飛行機の翼や胴体などが、風や気流 のエネルギーを受けて起こす破壊的な振動)防止の研究デー タが新幹線の開発に大きな役割を果たした。

航空機の主翼の桁材料として世界に先駆けてアルミニウム、マンガン、亜鉛系の合金に少量のクロムを添加した超ジュラルミンを実用化した。これは戦後のチタン合金炭素繊維強化プラスチックなどのハイテク材料の開発に比すべきものである。

 防弾タンクの主要構成材料としてのゴムの代用としての国産合成ゴムの製造(ブタジェンと耐性油の高いニトリウム物質の合成)特に、発泡ゴムの研究ならびに製造のノウハウが塩化ビニール、酢酸ビニールなどのビニール系合成樹脂産業に生かされ、今日の塩化ビニール産業発展の基礎となった。

 木製飛行機の製造のための木材繊維強化プラスチックの研究、および合板(ベニア板)接合用の尿素系接着剤の研究開発が、ゴルフのクラブのヘッド、テニスのラケットフレーム、スキー板など積層材技術を生かした製品を生み出した。

  航空機のエンジン部品(特に、コンロッドのローラベアリング、特に高圧縮比、高ブースト)を前提に設計され、「紫電改」、「銀河」、「流星」などの新鋭機に搭載された2.000馬力のエンジン「誉」は、高オクタン値のガソリンと純度の高いオイルの供給を前提にしたもので、オクタン値が100から90-88に下げられた後にシリンダー温度の異常な上昇が始まり、ケルメット(銅鉛合金)軸受けが焼き付くとエンジンが壊れる致命的な事故となり、その対策のための研究およびニッケル・クロム鋼、ニッケル・クロム・モリブデン鋼など特殊鋼の代用鋼鉄の研究開発努力が、自動車産業に大きく貢献した。

 その他、測距儀、射撃照準器のレンズの研磨技術、風防ガラスの改善のための強化プラスチック、ゼロ戦の前輪の制動装置(デスク・ブレーキ)、潜水艦捜索用の機上磁気探知器、等々枚挙にいとまがありません。

さらに、戦後、ゼロ戦など多くの航空機が調査のため米国に搬入され、高オクタン価の燃料と良質のオイルを供給して飛行した結果、公称最高速度:580kmであったゼロ戦が620kmの高速を出し、陸軍の四式戦闘機「疾風」などは650kmの最高速度を記録するなど、米側は日本の技術に驚きと脅威を感じ、それが戦後長らく日本の航空機産業の再開を遅延させた理由であり、またF-2支援戦闘機の日本独自の開発を執拗に妨害し、最終的に日米共同開発製造に至った経緯があります。(戦時の日本のオクタン価は90以下、最後には88に落ちました)


本論:

このような前提のもと、限られた時間の中で、ニーズに応じるのではなく、シーズを提示する技術開発の一例として、将来戦闘機のコンセプト、クラウド構想および宇宙移動体(ビークル)との関連等についてその概略をお話ししましょう。

まずは、1. 各国が最新鋭戦闘機の導入を図る理由は、NAVY -IN-BEINGに加えて、現在はPRESENCE-IN-AIRSPACEの時代に入り、「宇宙空間に存在すること自体が国威の発揚となり、かつ抑止力となる」ことにあります。

つぎに、2.「ステルス戦闘機」とは、そしてその問題点は

「第五世代の戦闘機」の用語は、ロッキード・マーチン社が新戦闘機を他機種と区別するため作り出したもので次のように定義しています。第四世代の戦闘機が「空中戦でエネルギー管理戦闘を行へるようにし、また各種の兵器を運用できる新しいセンサーを搭載するようになった」のに加え、「超低視性(ステルス性)より優れた機動性、センサー融合による高い状況認識力の提供、優れた維持、管理性、高い展開能力、ネットワークを活用しての作戦能力のような新たな要素を一つのパッケージにまとめたものとしています。その具備する問題点は、

空力的不安定性 そのような機体構造を得るため、空力的洗練度に劣る造形とならざるを得ないので、機体制御が困難になる。これを解決するには、高性能な機体制御系統やフライ・バイ・ワイヤーなどが必要となり、またインテーク(空気取入れ口内にレーダ波・ブロッカ等の構造体が必要である)。垂直尾翼はレーダー反射を抑制するため角度を付けた二枚翼とする必要がある。

搭載量 爆弾やミサイルなどを機外に装着すると、RCSが増大するので、ステルス性が失われる。このため、ステルス機は基本的に搭載兵器は全て爆弾倉(ウエポン・ベイ)内部に搭載する必要があり、兵装搭載量が少なくなりがちである

維持費 ステルス性を維持するためには、常に機体表面の研磨や電波吸収性塗料による塗装が必要であり、維持費・整備費が高価になる。

そして 3. 今、わが国が置かれた状況

現用の戦闘機は第4世代(F-2F-15Jなど)と呼ばれ、最新のF-22Aステルス戦闘機(ラプター) および現在開発中のステルス戦闘機F-35(ライトニングII)は第5世代と呼ばれています。航空自衛隊の時期戦闘機の候補に上がったユーロ・ファイター(タイフーン)や米海軍の艦載機F-18EF4.5世代に位置します。

 94機のF-2戦闘機最終号機は昨年9月に納入され生産が終了しました。その時点で戦後半世紀続いた日本の戦闘機生産は中断されました。 F-22導入により戦闘機生産を維持し、戦闘機の生産基盤の継続を望む防衛省に対して米国はそれを拒否しました。また米国から提案された4.5世代に位置する改良型F-15SE(サイレント・イーグル)(韓国が導入)を受諾せず、それで次善の策としてF-35が選定されましたが価格、納期および国内生産の範囲枠(国内航空産業の基盤の維持に寄与可能な分)が不明で混迷を続けています。 さらに40年近く酷使し、老朽化したF-4EJ(ファントム)60機の更新も緊要な問題です。また東日本大災害で水没した18機のF-2支援戦闘機(複座型) の補充もパイロットの養成訓練のため不可欠な問題です。

 これらの問題解決のため、高価なF-35の購入は調査、実験に数機に止め、実績がありそして安定で国内製造枠の範囲が多い4.5世代に位置するF-18 EFにすべきだったとする意見もあり、また現在進行中の「先進技実証機ATD-X(神心) の平成27年予定の試験飛行を促進すると共に、国産の第六世代の戦闘機」(平成の烈風)の完成に努力と経費を集中すべきとの論もあります。それまでの間、戦闘機生産基盤を継続維持することが不可欠です。

 ゼミナー資料

 将来の戦闘機構想 米国航空宇宙週間雑誌Aviation Week & Space Technology/Sep.にも掲載されました。

 この構想は現在問題となっている第五世代のステルス戦闘機以降のその後の日本の将来の国産戦闘機構想であります。防衛省はカウンター・ステルス能力の高い第6世代の有人戦闘機を視野に入れた将来国産戦闘機構想22825日に発表しました。この構想は将来の戦闘機:第6世代の戦闘機についてであります。

 構想の主体はi戦闘機でi、即ち3つのiは高度情報化(Informed)知能化(Intelligent)されて、瞬時に(Instantanuous)敵を攻撃すると言う意味です。

 開発の行程はまだ確定されてませんが平成33年度頃から本格開発となり、経費は機体の大きさにもよりますが、50008000億円規模と見積られています。

 機体システム構想には、次の7つの重要先端技術の適用が含まれています

①誰かが撃てる、撃てば当たるクラウド・シューティング(統合火器管制技術、先進コックピット)
②数的劣勢を補う将来アセットとのクラウド(無人機、既存の衛星との連携)
③撃てば即当たるライト・スピード・ウェポン(指向性エネルギー兵器技術)
④電子戦に強いフライ・バイ・ライト
⑤敵を凌駕するステルス(コーティング、武器内装化、空気取入口)
⑥次世代ハイパワー・レーダー
⑦次世代ハイパワー・スリム・エンジン

 これらの内、①⑤⑥⑦は20年後に実現させ,②③は3040年後に実現をめざし、④は現在でも実用可能なレベルになっています。②は有人戦闘機の前方を飛行するセンサーとなる無人機と組になり、無人機は有人戦闘機が探知されぬよう支援しつつステルス目標を探知する技術、③はレーザーと高エネルギーマイクロ波に焦点を置くことになっています。

 防衛省は、国内における戦闘機の生産技術基盤の維持・育成は極めて重要。そして将来、国産戦闘機の開発を選択肢として考慮することができるよう調達・研究開発を進めていくことが必要,という基本的考え方のもとに、この構想をまとめています。 防衛省は、ロシア、中国、インドが新戦闘機を開発中で、これらに対し日本は数的に劣勢でも質的な優位を確保するよう活動しなければならないことを強調しています。また、開発の意義として、自動車産業と比べた波及効果が極めて広範にわたることを述べています。航空機産業関係者にとり、本構想は航空機産業の中長期的事業計画の指針となるものと言えましょう。さらに航空機産業ばかりでなく、世界一流の日本の情報、電子、材料技術産業の航空機産業参画へのきっかけとなり、国内産業の活性化に寄与することが望まれます。

 最後に、本日のプレゼンテーションの基盤とした事項、即ち、「君主論」、「政略論」および「戦術論」を纏め上げた兵法家、ニッコロ・マキアヴェリ(1469-1527)の君主論からその一節、「国家にとって厳重な上にも厳重に警戒しなければならないことは、軽蔑されたり見くびられたりすることである」。

 さらに、クラウセヴィッツ(1780-1831)の未完成の「戦争論」からは「政治力の基礎は軍事力である。そして経済力はもし実際に軍事力に変えられる時にのみ政治力を構成する」の一節を紹介して論を終える。

 以下にゼミナー配布図面を添付する。



                                完